5.白蛇の忠告

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 だがそんなことも霞むくらい、今気になっているのは…… (鬼って本当にいるんだ……)  その事実だった。それこそ『鬼』など、お伽話や昔話のフィクションの世界にしか存在しないと思っていたのだから。  大蛇は最後に、「わかったら松原忌一には関わらない方がいい。忠告したぞ」と言って、二人きりのこの空間を解いた。その途端、スーパー店内の色彩が戻り、店内アナウンスとBGMが両耳に飛び込んでくる。そして美月と葵が近寄ってきて、「イケメンと何喋ってたの?」と訊いてきた。  すぐそばにいたはずの白い大蛇はすでに彼女の元へと戻っており、二人でレジ方面へと向かって歩き出していた。 「忌一さんに……関わるなって」  言うつもりはなかったけれど、ぼんやりとした頭で口だけがそう動いていた。頭の中では大蛇に言われたことを反芻(はんすう)していたからかもしれない。隣に立つ葵からは、「はぁ!? 何でイケメンだからってそんなこと言われなきゃなんないの!?」と少し憤慨した声が聞こえた。  そんな彼女を「まぁまぁ」と宥める美月の声を遠くに聴きながら、凪は暫くの間、その場で動けなくなるのだった。
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