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6.陰陽師とは
田嶋の元へ銘『宗輔』を届けてから一ヶ月が経過した頃、俺と零司が始めた陰陽師の仕事は細々とだがまだ続いていた。当然のことだが、零司が一人で“霊能力者”と名乗っていた頃ほどは稼げていない。それは、俺が何だかんだ異形や霊たちの願いを聞き届ける度に、余計な出費がかさむからだった。
それについて零司はいつも、「忌一がどれもこれも安請け合いするからや!」と青筋を立ててはいたが、一人で詐欺まがいの活動をしていた頃よりは、俺と一緒に活動している方がずっとマシらしい。
したがってまだ、俺たちのビジネスパートナー契約は解消されていなかった。変わったことがあるとすれば、零司が俺に“君”付けをやめたことくらいだ。
「ところで忌一、高梨さんから連絡あったで。無事、宗輔が届いたって」
いつもの駅前の喫茶店で、入店早々コーヒーを注文するなり零司はそう言った。
「ってことは、田嶋さんはもう……」
「あぁ、亡くなったんやろな」
零司から出された条件で、別れ際に田嶋には簡単な契約書を一筆書かせていた。それは、『田嶋が亡くなった後、宗輔の所有権は高梨に移る』というものだった。
遺品となった宗輔は、田嶋を担当していた看護師によって無事高梨の元へと届けられた。遺品の配送業務など本来の看護師業務からは逸脱しているが、契約通りに宗輔を送る手配をしてくれた看護師には、感謝をしてもしきれないものがある。これぞ慈善の精神と言うべきか。
零司の話では、高梨の手元に戻った宗輔が再び夜な夜な泣くことは無かったという。その代わりと言っては何だが、高梨は毎日のように宗輔を眺め、頻繁に手入れをして大事に大事に所有しているのだと。
「最期まで田嶋さんと一緒に居られて、宗輔は心の整理がついたんだろうな。本当に良かった」
「それもこれも、忌一のおかげやで」
いつもは口酸っぱく経費削減を念押しする零司が、不意にそんなことを言うので思わず面食らった。
「何や、その顔は」
「いや、珍しいなと思って」
「わいかてこれでも忌一には感謝しとるんやで? わい一人でやってた頃より、圧倒的に心のこもった感謝メールが届くからな」
相談後に送られる依頼者からのメッセージを見て、零司は本当に人の役に立てているのを改めて実感するらしい。だから自分一人で霊能力者を名乗っていた時よりも、現在の方が充足感があるのだそうだ。
零司のその照れたような誇らしげな顔を見ていると、俺の口元も思わず緩みそうになった。困っていた依頼者や、人ならざる者たちの力に少しでもなれたことは嬉しいが、零司自身の役に立てていること自体もまた、俺にとっては嬉しかった。
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