2、暴力教師

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2、暴力教師

 転校初日。  私は、少し緊張していたがそれはどちらかというと期待に近いものだった。  職員室に案内され待っていると、担任の先生が現れた。  名前は浜田先生。  優しそうなたれ目のほとんど白髪の小さいおじいちゃんだった。 (怖い先生ではなさそう?)  私はホッと胸をなでおろした。  しかし、すぐに好々爺(こうこうや)の仮面の下に隠された裏の顔を知ることとなる。    *  担任に案内され5年2組の教室に入ると、汚れた金魚の水槽が目に入り少し不思議に思った。 (苔でよく見えないけど、金魚がいるのかな?)  前のマンションでは、金魚と川魚を飼っていた。  引っ越しの長時間の移動には耐えられないだろうと、金魚は学校へお願いし、川魚は獲って来た河へ放流した。    たれ目のしわの深い担任に連れられ私が入ると、ざわついていた生徒たちがピタリと静かになった。  教室に緊張感が走る。 「東京から来ました。天城蘭(あまぎらん)です。好きなスポーツはバスケです。よろしくおねがいします!」  最初が肝心だと、私は大きな声を出したが口調は早口になってしまった。  みんなは少し唖然としている。  転校生デビューをするんだと息巻いていたが、結局、私には漫画のようなキラキラや美少女補正は発生しなかったようだ。    *  転校初日から漢字の豆テストがあった。  私は、10問中1問も正当できなかった。  五年で習う漢字は学校が違っていても同じはずだが、元の教科書が異なるため学習する順序が違う。  とはいえ、もう12月なのだから言い訳は難しい。  正直、私は漢字が苦手だった。  頭のいい転校生像も幻に終わり、私はがっくりと肩を落とす。  帰りの会の前に、漢字テストで0点の者が4人呼ばれ、その中に私が含まれていたのだ。  教卓の前に並んで立たされる。  あからさまな見せしめに、私は恥ずかしさでカッと顔が熱くなる。  転校初日に、こんな目に合うことは屈辱だった。  でも、それだけでは終わらなかった。  たれ目で好々爺(こうこうや)そうな担任教師が、左に並んだ者から順に平手打ちをし始めたのだ。  私は目を疑いサァーっと青ざめる。  しかも、教師はニヤニヤしている。  殴りながら、笑っているのだ。  私は、理解できないまま左頬をぶたれた。  頬に痛みと熱を感じる。  軽くなんてものではなかった、振りぬかれたビンタだった。  両親にもこんなに強く叩かれたことはない。  しかも、危険なことや悪いことをしたわけではなく、成績が良くなかったという理由でなんてありえない。  前の子と同じように、私の頬にも手跡がついていると思うと、悲しさと恥ずかしさでブワッと泣きそうになる。  しかし、転校初日から子供みたいに泣きわめくことなどできず、頬の内側を噛んで必死にこらえた。  私の転校デビューは完全な失敗だ。 (それよりもこのクラスは、センセイは何なの……?)  クラスメイトは、誰もざわついていなかった。  これが日常だからだ。
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