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大量の書類を抱えて保健室への道を歩く、栗色のボブヘアの男子。七穂学園高等部生徒会保健体育部長の柳原ソウは、よたよたと最後の階段を降りていた。
一年生の教室は四階、保健室は一階。各自保健室に提出するはずの書類をクラス四十人のほぼ全員に押し付けられて、断りきれなかった結果だ。
ただ一人生徒会で部長をしているからか、それとも有名アスリートを輩出する柳原家の人間だからか。このクラスはソウに厳しかった。
「おっっっも……」
七月の暑い時期、クーラーの効きにくい階段をぐるぐる下っていれば汗も出る。ピタリと額に張り付いた前髪と地味に湿気を含んだ栗色のボブヘアが鬱陶しい。残りの昼休みは涼しい保健室で過ごさせてもらわないと割に合わないなとため息をついた。
そっと足で引き戸を開ける。仕方ないだろう。両手が塞がっているのだ。白く清潔な部屋がひろがる。顔見知りの養護教諭が笑って迎え入れてくれた。
「こんにちはソウくん。どしたの?」
さりげなく書類を全て取っていった彼女の手腕は素晴らしいと思う。彼女は書類を一目見て、パッと表情を変える。
「全く、あのクラスは……ソウくん、断れなかったの?」
おずおずと頷けば、彼女は考え込む。
「dom性が乱れたりしてない?大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込む養護教諭にソウは笑い返した。
「大丈夫です。でも、疲れたんで休ませてください」
「おっけーそこのソファ使いな」
「ありがとうございます」
靴を脱ぎ、ソファに寝転がって天井を見上げる。
柳原ソウは、domだ。
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