OXYGEN

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 誰かに揺さぶられている。誰だ。そっと目を開ける。薄い青色の瞳と目が合う。反射したソウの青緑色の瞳が揺れる。鳥の巣のような黒髪はふわふわで触り心地が良さそうだ。 『褒めたい』  理由もなくそう思った。なかば無意識に左手が伸びる。彼の頭に乗せて、ゆっくり、ゆっくり撫でた。  「えらいね」 考える間もなく言葉が口から飛び出た。彼は目を丸くするととろりと笑って、猫のように手にすり寄ってくる。ソウも一緒に笑う。  「かわいいね。かわいい」 彼はおずおずと両手を差し出してきた。ソウは横たえていた身体を起こし、両腕の中に彼を閉じ込める。いわゆるハグだ。  ソウの背中にまわされた彼の腕が全力でソウを締め付けるが、それさえも心地よい。しばらく彼の背中を撫でつづけていると、突然彼がぺたりと床に座ってしまった。保健室の白い床はクーラーで冷たくなっているはずだ。  「ここ座りな。冷たいでしょ」 ぽんぽんと隣の座面を叩くと、彼はもぞもぞと体勢を変えてちょこんと座った。恐る恐るソウを見て、彼はソウの膝にぽすっと頭を乗せた。膝枕である。  「っ!」 驚いて目を丸くするソウ。抱きしめようと伸ばした手が止まる。  「……?」 彼は不安そうにソウを見つめた。仰向けになった彼の右手が固く握られる。そっとその手に触れて、ソウは一本一本指をほぐしていく。そのままきゅっと指を絡ませて握る。世間で言うところの恋人繋ぎだ。ぱっと彼の表情が明るくなり、握られた手に頬ずりをし始める。  「かわいいね。えらいこ。いいこだね」 右手は彼に遊ばせたまま、ソウは左手でゆるゆると彼を撫でる。だんだんとろんと落ちてゆく瞼に、「おやすみ」と声をかければ、すうすうと穏やかな寝息が聞こえてきた。  チャイムが鳴る。昼休み終了の合図だ。ソウは我に返る。恋人繋ぎの手と、膝枕で寝ている謎の彼。  僕は、一体今何をしていたんだ。同意のないplayか。最悪だ。commandも使っていないような、playとも言えないふれあいでも、ソウの自己嫌悪を助長するには十分だった。  これでは、これでは、僕が大嫌いな柳原家の奴らと同じではないか。ソウはゆっくり膝から彼を降ろす。 「ごめん」  「待って、ソウくん!」 養護教諭を無視して、ソウは屋上へと走った。
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