OXYGEN

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 ――ピンポンパンポーン――  心此処にあらずなソウの耳に、聞き慣れた機械音が届く。ソウはそっと耳を塞いでいた手を離してそのまま起き上がった。幻聴は収まったし、心臓も呼吸もいつも通りだ。  ――柳原ソウくん。柳原ソウくん。至急保健室へ来てください――  焦りを含んだその声に、ソウはどきりとした。彼絡みの件だろう。何を言われるか分からないが、行かなければならない。ソウは立ち上がって、重い屋上の扉を開けた。  保健室では、あの養護教諭がソウのことを待っていた。ソウを見つけたとき、彼女はホッとしたような表情をした。理由は分からなかった。  「ソウくん、来てくれてありがとう!こっち!」 養護教諭に手を掴まれ、つられるがまま保健室の奥へ入ってゆく。『playroom』と書かれた表札がかかったドアの前で手を離された。  「この奥にいる子のaftercareをしてほしいの。safewordは『やめて』。commandは『good(いい子)』だけ。大丈夫。私も何かあったらすぐ来るから」 問答無用でドアを開けられ、優しく背中を押される。  よろけるように部屋の中に入ると、清潔な白いベッドに腰掛けてはらはらと泣いている黒髪の子がいた。焦点の合っていない瞳で壁の方を見つめている。これは十中八九subdropの症状だ。  お昼の彼だ。直感的に理解した。  「でも俺、お昼に、そのせいで、」 「大丈夫だから!ソウくんが去ってすぐ悪化したから、ソウくんがcareしてあげるのが一番いいよ」 悪化?前々からsubdropしていたのか。やはりなんてことをしてしまったのか。  「ほら、大丈夫だから。行っておいで」 促されるがままにふらふらとベッドまで行き、ゆっくりと彼の前にしゃがむ。何をすればいいのかわからない。そういえば…。  「先生、彼の名前は?」 「言ってなかったっけ?碧山レイくんだよ」 今から出ますといった格好で養護教諭は答えた。 「えっと、何すればいいんですか。なにせ、初めてなんで…」 彼女は驚いた顔をして、それから少し考えて、言った。  「自分のやりたいこと、やってほしいことを考えてごらん」 何かあったらベル鳴らしてね〜、と養護教諭は部屋から出ていった。  部屋の中にはなにもわからないソウと、ずっと泣いているレイが取り残されてしまった。
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