OXYGEN

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 自分がやりたいこと。なんなのだろう。よくわからない。ソウはレイの前でしゃがんだまま考える。でも、やってほしいことならある。そう、まずは泣き止んでほしい。subdropから抜けてほしい。自分のせいでもあるし、このままだと謝ることもできないから。  養護教諭の言い方だと、ソウはレイをcareする義務がある。ネガティブな感情は抑え込んで、まずは目の前のsubのために思考を使おう。今は、彼のために。  泣き止んでもらう。何をすればいい?subdropから抜けるために必要なのは、subを安心させて癒やすこと。…ハグか?いや、いきなりしても驚かれる。まずは。  「レイ、くん?手、握ってもいいかな」 ソウは一言断って、膝の上でぎゅっと固く握られたレイの両手を包む。慎重に、優しくその結ばれた手を開いていく。一本一本、ゆっくり。よく見ると爪が食い込んで血が出ている。痛そうだ。手当は後で必ずしよう。  「そんなに握ったら痛いでしょ。俺と手つなご」 レイの両手の指を伸ばし終えて、ソウはレイの左手の指の間に自分の右手を滑らせる。傷に障らないようにこれまた慎重に握る。 「かわいいね。さすがレイくん」 今度は昼とは違う、意識的な恋人繋ぎだ。結構恥ずかしいなこれ。  もう片方のレイの手は恋人繋ぎを包むように握らせた。空いた左手でソウはゆっくりレイの頭をなでる。 「いい子だね。俺、ここにいるから。安心して」 努めてやわらかに落ち着いた声で語りかける。レイと目が合うことはない。じっと下を向いている。恋人繋ぎにぽつぽつと雨が降る。レイの涙だ。  「大丈夫。レイくんは独りじゃない。俺と一緒」 なでなでと髪を梳かすようにレイの頭をなでる。ストレートの黒髪は少しごわついていて、レイの慢性的な体調不良を嫌でも感じさせる。このままなでていてもいいが、それだとこれ以上の回復もしない。そろそろ次の段階に行ってもいいのではなかろうか。  「レイくん、ぎゅってしていい?」 なでながらソウは声をかける。返事はない。申し訳ないが、返事を待たずにハグさせてもらおう。ソウは繋いだ手はそのままに立ち上がる。その手をレイの膝の上から少しずらした。重ねていたレイの右手を自分の背中にあて、頭をなでていた手をゆっくり背中にまわした。ちょうどソウの胸にレイの頭がくるようにハグをする。  「じょうず。しっかり泣きな。俺が全部受け止めるから」 しっとりとソウのシャツが湿る。ぐすぐすと、小さく、ついさっきまで聞こえなかった嗚咽が聞こえるようになってきた。きっと良い兆候だ。  「大丈夫。声出しても良いんだよ。俺しかいないから」 そっと声をかけて、背中をぽんぽんと優しくたたく。引きつったように息を吸う声が聞こえて、背中にまわされたレイの手がソウのシャツを握りしめる。  「う…あ、ヒュッ、だれ?だれ?」 「俺は柳原ソウ。ごめんね、勝手にcareして」 そっと撫でながら声をかける。意識的に優しく、落ち着いた声で。 「わか、わからない、だれ?」 「ソ、ウ。呼んでごらん?」 ぐすぐすと湿った声で、まるで迷子の子どものように問いかけるレイ。少し身体を離してレイの目を見ると、パチリと視線が合った。 「ソ、ソウ…?」 怯えた目で、だけれどしっかりと名前を読んでくれたレイに、ソウはとびきりの褒め言葉を与えた。  「good、偉いね、レイくん」
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