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私は紙を受け取った。それは一枚の写真だった。十センチ角の大きめのフィルムだ。裏面には何も書かれておらず、少し黄ばんでいる。ひっくり返すと、家族写真だった。やや褪色はしているが、カラーのインスタントフィルムだ。
手前にぼやけた黒い影があり、その向こう側の家族にピントが合っている。
家族にフォーカスしているので、家族以外の風景は完全にぼやけて写っていた。
母親らしき女性と、その向かいに中学生くらいの少年ともう少し年が上の少女が、ダイニングテーブルに着いて、満面の笑みをカメラに向けている。
一見とても幸せそうに見える家族写真だ。そして、その家族は見知らぬ赤の他人だった。
一度は受け取ったが、不安が湧き上がってきて、なんだか急に気持ち悪くなり、汚いものをつまむように持ち替えた。
「これどうしたんだ?」
隼也に尋ねると、「ここにあったよ」とクローゼットを指さした。
「おもちゃなら、納戸にあるから、出してやろうか?」
「うん」
ゲームやお絵かきにも飽きてしまったんだろう。
納戸には、私が小さい頃に遊んでいた玩具がしまっているはずだ。レールを敷いて遊ぶ列車の玩具もあったはず。組み立てて遊ぶブロックもあったように思う。
「下に行ってなさい。見つけたら持って行くから」
「うん」
隼也は素直に返事をして、階段を降りていった。
私はもう一度家族写真を眺めた。
幸せそうな家族。幸せな生活の一部を切り取った写真だ。撮ったのは父親がだれかだろう。
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