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プロローグ 鷹村 翔太
その空き家は、丁字路の突き当たりに門を構える、平屋の一軒家だった。
屋根付きの門には蔦の代わりに虎ロープが張り巡らされている。壊れた扉は半開きで、ロープの効果はなさそうだ。
長い間、風雨に晒されて、黒く腐った柱は緑色に染まり苔むしている。
空き家を囲む高いブロック塀から、鬱蒼とした枝葉がはみ出して、蔓性植物が巻き付き、いよいよ野放図に生い茂っている。
荒れた印象の木々は暗く沈んで見え、まるで、だらりと手を垂らした緑色の怪物だった。
ブロック塀から剥がれかけた、雨ににじむ売り家の張り紙は、門と同様にどことなく異質で、現実離れしている。
空き家の周辺には、白い箱のような形の建売住宅が建ち並び、この一角だけが時代に取り残されたように見えた。
当時、十歳だった私は虎ロープの前に立ち尽くし、自分を取り囲む少年達を直視できずに俯いていた。
日差しが作る、足下の影だまりを無言で見つめ、どうすべきか逡巡する。
「早よ行きぃ」
少年の一人が乱暴な方言で私を責付く。
私は決心が付かず、何度も同い年の少年達と古びた門を交互に見ていた。
じりじりとした夏の日差しと、道を取り囲むように響く蝉の声が、雨のように肌を打つ。
額からじっとりと汗が垂れて、それを腕で拭う。黄色いタンクトップに汗がにじんで、肌にへばりついている。
退屈な夏休みの暇つぶしに、馴染みのない町を一人でぶらぶらと探索するのは、思っていた以上に面白いものだった。
この頃、私は父の仕事の関係で福岡にあるこの町に引っ越してきたばかりだった。
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