プロローグ 鷹村 翔太

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 元々、父母は福岡の出身だが、赤ん坊の時から関東で育った私にとって、福岡は未知の土地だった。  言葉も、町の空気の匂いすら違う、福岡にある小さな町。スーパーやコンビニも駅前にあるきりで、三階建て以上の家屋やビルは珍しく、新興住宅が駅を囲むように広がっている。  やたら点在する公園や空き地、町中に突如現れる畑や田んぼ。それらが全て、私には目新しい。  古い建て屋の立ち並ぶ、ひと一人通れれば良いほど狭い路地には鉢植えが並び、鉢にはひょろひょろと頼りない花が植えてある。  くねくねと続く路地裏を抜けて狭い通りに出る。  車が一台通れるかどうかも怪しい道に乗用車が駐車しているのを見て、どうやってここまで入ってきたか不思議に思った。  駅前にあるコンビニへアイスを買いに家を出て、その帰り道だった。  面白がってあちこちの角を曲がるうちに、元来た道を見失っていた。それでも楽しいと思えたのは最初のうちで、アイスを食べ終わる頃には不安に変わっていた。  とぼとぼと歩く道の先に、子供の集団がいた。公園の入り口にたむろしている少年達は手にサッカーボールを持っている。  見覚えのある顔ぶれに、すぐにクラスメイトだと気付いた。思わず、足を止めて身構えてしまう。  一学期の途中で転校してきた私は、すでに出来上がったクラスメイトのグループに混ざれず馴染めないままだった。  だから、彼らの笑顔に悪意を感じたし、乱暴に聞こえる方言に怯えてもいたのだ。 「おまえ、鷹村っち、言ったっけ?」
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