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私は慌てて周囲を見渡したが、隼也の言う大人はどこにもいなかった。私を相当困らせたのに、楽しそうにしている息子に苛立ってしまう。
「誰もいないじゃないか」
私が隼也を責めると、隼也はくるりと振り返って門を見る。
「いるよ、おうちの中に入っていった。でも、知らない人のおうちに遊びに行ったらいけないってお父さんと約束したから、ここで背の高い影の人を待ってた」
沙也加と私が、以前、隼也に言い聞かせたことを覚えていてくれたんだ。しかし、それと同時に頭から血の気がすぅっと引いた。背の高い影の人……。確か、初めて息子と丁字路の前を通ったときに息子が言っていた。
「その影の人はどんな人だった?」
「真っ黒だよ」
「肌が黒いの? 服が黒いの?」
隼也が無邪気に言う。
「ううん、全部黒いよ」
黒いと聞いて、私は背筋が震え、悪寒が走った。嫌な記憶が脳裏を過る。
「もう黒い人に付いていったらダメだ。分かった?」
隼也は納得のいかない表情を浮かべていたが、こくんと頷いた。
「さぁ、家に帰るよ」
私は隼也の小さな手をぎゅっと握って、半ば引きずるように家まで引っ張っていった。
リビングに入ると、すでに帰り支度をして、三善さんが待っていた。
「お帰りなさい。今日はお風呂に入ってもらいました。ね、さっぱりしましたね!」
笑顔を母に向けて同意を求める。
母も機嫌好さそうに、理解してなさそうな笑顔で、「そうねぇ」と答えている。
「今日はすみませんでした。お時間大丈夫でした?」
三善さんが少し困った表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。
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