第一章 鷹村 翔太

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 トイレにでも行っているんだろうと思い、自分もなんとなく寝苦しかったので、キッチンに行って水でも飲もうと起き上がった。  部屋を出て、キッチンに行く前にトイレに寄る。しかし、誰もトイレに入っていなかった。  不審に思って、母の部屋にも行き、隼也がいないか確かめると、母の布団もめくれていてもぬけの空だった。  母がいない。隼也も。  私は一気に全身から血の気が引いた。  最初は呆然として戸惑い、しっかりしろと自分を奮い立たせ、着の身着のままで鍵とスマホを手に、急いで外へ出た。  信じられない。一日になんで立て続けにこんなことが起きるのだ。冷静になれ、冷静になれと、自分に言い聞かせる。隼也や母にこれほど振り回される自分を、情けなく思う。  夜中の住宅街は、しんと静まりかえり、点々と窓明かりが点る以外は真っ黒く塗りつぶしたように暗い。  大声で名前を呼ぶのは近所迷惑になると思い、家の周辺を歩き回って、道を覗いていった。  母はともかく、隼也はまだこの辺りを一人で歩いたことがない。二人同時にいなくなったと言うことは、まさか母が隼也を連れ出したのだろうかと勘ぐってしまう。  もう少し探索範囲を広げようと思い、公園の方角に向かっていった。  結局、公園にもおらず、駅前に向かう。  等間隔に点る外灯の明かりを頼りに、暗い夜道を歩いて行き、丁字路の空き家の近くまで来た。  もし、駅前にもいなかったら、警察に電話をして、母と隼也を探してもらうしかないかもしれない。  そう思いつつ、暗い影とほのかな外灯の明かりの中をくぐっていく。
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