第一章 鷹村 翔太

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 空き家の門の前は暗く沈み、虎ロープがよく見えない。ちょうど外灯の明かりが届かないのだ。  その前に、蟠る黒い闇が見えた。濃い藍色よりも一層暗く色彩を失った塊があり、じっと佇んでいる。  まさかと思って静かに近づいていくと、それが人の影だと分かった。  もしや母だろうか。母であってくれと願いながら影のそばに行くと、遠い外灯の明かりが四つの光が反射した。 「ひっ」  私は心臓が止まるかと思った。  あの日、私が見た目玉かと思うほど、黒い闇は白い目玉を私に向けてじっとしている。 「お父さん」  聞き慣れた母の声がした。低い位置で光る目玉は隼也のものだった。  二人とも笑顔で私を見つめている。  私は、安堵と怒りとで、声が出なかった。責めたい気持ちに急き立てられたが、ぐっと押し止める。  母に何を言っても無駄だし、隼也を叱っても、そもそも家を勝手に抜け出そうと誘ったのが隼也かどうか分からない。家に戻って経緯を聞くしかないと思った。 「家に帰ろう、な」  私は気が抜けて力ない声音で二人に促した。  隼也の手を握り、母を支えて、家に向かった。  憤りにも似たわだかまりが喉につかえていたが、むしろ丁字路で二人が見つかって良かったのだと、落としどころを自分に与えようと、言い聞かせるようにため息を吐く。  納得のいかなさと探し回らずに済んだという安堵が、交互に自分の感情を揺るがす。  なんなんだ、一体どうして……。  と、そこまで考えたところで、私はつばを飲んで、自分を落ち着かせた。
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