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いや、こんなことを考えてはいけない。こんなことを考え出したら、この先自分は……。
私は思考を別の方向に向ける努力をした。
まだ始まったばかりだ。こうすると自分で決めたのだ。だから、怒りや憤りに我を忘れてはいけない……。
とぼとぼと三人で家路に就き、暗い玄関の明かりを点して、二人をそれぞれの寝室に連れていった。母が私に、「あの子は誰? どこの子なの?」と言った。
「隼也だよ。俺の息子。母さんの孫だよ」
母が首をかしげて不思議そうに言う。
「私に孫なんていたかしら……」
「生まれた報告はしたけど、初めて会うから仕方ないよな」
「そうなの? じゃあ、仲良くしないとねぇ。私たちに孫なんていたのねぇ、お父さん」
今夜は訂正するだけの元気もない。訂正しても翌日には忘れてしまうんだから無駄だ。
「さ、母さん。おやすみなさい」
「おやすみ」
母をベッドに寝かして、寝室に押し込んだ隼也の様子を見に行った。
隼也はおとなしく布団にくるまって寝ている。東京の家にいたときは、なかなか寝ない子だった。知らない土地に越してきて、友達も作れないでいることを不憫に思う一方で、夜中に外に出たことを叱りつけたいという欲求が高まってくる。
私はため息を吐き、ダイニングに行って、冷蔵庫の中を物色する。買い置きのビールがあったので、取り出してプルトップを開けて缶のまま飲んだ。
苦みがスーッと喉を通り、胃の腑に落ちるのを感じる。胃の腑にアルコールが染み渡った。「ふぅ」と思わず声に出して息を吐いた。
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