第一章 鷹村 翔太

23/29
前へ
/204ページ
次へ
 母が隼也を私と間違えるのは、同じ年頃の私と隼也がうり二つだったからだ。それで納得はしたが、何度も翔ちゃんがこんなことをした、あんなことをしたと、話す母はとても楽しそうに見えた。  昼ご飯を作り、食べている最中に、伊藤さんがレンタル業者の人と訪問してくれた。 「お食事中にすみません」  伊藤さんは頭を下げて、リビングのテーブルに畳んだシートを置いた。  想像していたより小さなものだったが、玄関マットの下に隠すと、目立たない大きさだと分かった。  コンセントを差して、ブザーが鳴るか試すと、結構大きな音が出た。  シートをレンタルする契約書を業者と交わした。伊藤さんがねぎらうように私に言った。 「これで、家から出ようとしたら事前に分かるようになりますよ。徘徊は大変ですし、気疲れしてしまうから、少しは助けになるかもしれないですね」  伊藤さんと話していると、いつの間にか午後一時になっていて、三善さんが訪問してきた。 「昨日の夜、母と息子が外に出てしまって大変でした」  と、近況を述べると、三善さんが酷く同情してくれた。 「それは大変でしたね。でもすぐに見つかって良かった!」  ひと晩経つと、私も冷静になっていて、「そうですね」と自然に言えた。  ブザーさえあれば、母や隼也が家から出るのを未然に防ぐことが出来る。ようやく安心して眠ることが出来そうだ。 「ありがとうございます」 「佳子さん、とても健康で足腰が丈夫だから、たまにお散歩に行くのもいいですね。歩かなくなると、弱ってきますから」  と、伊藤さんがアドバイスをしてくれた。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加