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母が隼也を私と間違えるのは、同じ年頃の私と隼也がうり二つだったからだ。それで納得はしたが、何度も翔ちゃんがこんなことをした、あんなことをしたと、話す母はとても楽しそうに見えた。
昼ご飯を作り、食べている最中に、伊藤さんがレンタル業者の人と訪問してくれた。
「お食事中にすみません」
伊藤さんは頭を下げて、リビングのテーブルに畳んだシートを置いた。
想像していたより小さなものだったが、玄関マットの下に隠すと、目立たない大きさだと分かった。
コンセントを差して、ブザーが鳴るか試すと、結構大きな音が出た。
シートをレンタルする契約書を業者と交わした。伊藤さんがねぎらうように私に言った。
「これで、家から出ようとしたら事前に分かるようになりますよ。徘徊は大変ですし、気疲れしてしまうから、少しは助けになるかもしれないですね」
伊藤さんと話していると、いつの間にか午後一時になっていて、三善さんが訪問してきた。
「昨日の夜、母と息子が外に出てしまって大変でした」
と、近況を述べると、三善さんが酷く同情してくれた。
「それは大変でしたね。でもすぐに見つかって良かった!」
ひと晩経つと、私も冷静になっていて、「そうですね」と自然に言えた。
ブザーさえあれば、母や隼也が家から出るのを未然に防ぐことが出来る。ようやく安心して眠ることが出来そうだ。
「ありがとうございます」
「佳子さん、とても健康で足腰が丈夫だから、たまにお散歩に行くのもいいですね。歩かなくなると、弱ってきますから」
と、伊藤さんがアドバイスをしてくれた。
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