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家に辿り着くと同時に三善さんと交代する。今日は散歩に行ったらしい。公園に来なかったと言うことは、空き家のある丁字路をまっすぐ行くコースにしたか、正反対の方向へ行ったか、どちらかだろう。
ほどよく疲れたのか、満足した顔つきで、母がソファに座りお茶をすすっている。
「母さん、散歩は楽しかった?」
「散歩? 散歩なんて行ってないわよ?」
散歩から戻ってすでに三十分くらい経っているせいか、母はもう散歩のことを忘れていた。
三善さんを振り返ると、苦笑いを浮かべていた。それを見て私も苦笑する。
ほどなく三善さんは帰り、私は茶菓子を用意しておやつにした。
「隼也」
リビングに隼也の姿がない。私はドキッとする。まさか、また勝手に外に出たのだろうか。でもブザーは鳴っていない。廊下に出て、寝室へ行き、また名前を呼ぶ。布団に隠れている様子はない。
玄関ホールにある階段を上って、二階へ行く。二階には私の部屋の他に一部屋、それと納戸がある。登り切り、廊下に出ると、私の部屋のドアが開いていた。
「なんだ、そこにいたのか」
呟きながらドアから部屋を覗くと、クローゼットの中に体を半分埋めて、隼也が何か物色している。
「おもちゃなら納戸にしまってると思うけど……」
声をかけると、隼也がクローゼットから顔を出した。
「これ」
そしておもむろに何かを私に差し出す。一枚の紙のようだ。
「なんだ、これ?」
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