第一章 鷹村 翔太

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 それにしても、こんなものがどうして私の部屋にあるのだろう。なんだか見覚えもあるが、フッと掠めた記憶は頼りなげに消えていった。  どうにも思い出せず、母に聞いてみようと思い、ジーパンのポケットに差し込んだ。  納戸に行き、ダンボールにマジックで書いたメモを見ながら、ようやく、「翔太おもちゃ」と書かれたものを見つけた。何歳の時の物かは分からないが、玩具で遊ぶ年頃はだいたい限られていると思う。  私が六歳の頃はブロックが流行っていた。小学校に上がり、携帯ゲーム機を買ってもらってからは、級友と友達通信をしながらいっしょに対戦して遊んだ記憶がある。  懐かしい記憶に耽っていたが、隼也に玩具を持って行く約束をしていたことを思いだして、中身を確認した後、ダンボールごと一階の座敷に持っていった。  リビングには、茶菓子を食べ終え、ぼんやりとテレビを見る母と、その隣でゲームをしている隼也がいた。 「隼也、おもちゃ持って来たぞ」  嬉しそうに隼也が顔を上げて私を見る。 「座敷にあるから、気が向いたらそれで遊んだらいい」  途端に、ゲーム機をテーブルに置いて、隼也はドタドタと騒がしく出て行った。  相当退屈していたようだ。  私は苦笑しながら、自分のお茶を注いで、母の隣に座った。 「そういえば、これ」  ポケットに入れた写真を取り出し、母に見せた。  母が写真に目を向ける。 「どなたの写真?」  私はガッカリして写真をテーブルの上に置いた。  母も知らない家族写真なのだ。だったら何故こんなものが家にあるのだろう。
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