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青葉月4日 木曜日 天気晴れ
懐かしいことを思い出したから、今日の日記に書き記しておこうと思う。
野っぱらを駆けずり回っていたあの頃、黒髪黒目のこの世界では珍しい色をしたお兄さんにあったことがある。黒髪黒目は不老故に差別の対象だったが、僕はそんなこと知らずに彼と仲良くなった。
お兄さんは教会名を『タンジー』と名乗って、僕は『タン兄』と彼のことを呼んでいた。教会名を名乗ったのだから、修道士かなにかかと子供ながらに思ったが、タン兄は修道服は着ていなかった。
タン兄はいつも草を摘んでいた。薬草とかの使える草ではなくて、ただの雑草。挙句の果てにはそれを食べていることもあった。僕はタン兄にいろんな草を教わった。タン兄も様々な種類の草に喜んでいるようだった。タン兄はどうやらなにかの植物を探しているらしくて、教会から派遣された探索員なのかなと勝手に理解した。この世界の植物すべてを愛する教会らしさが溢れているとその時は感じたものだ。雑草に感謝するあたり、タン兄も教会の人間だと信じて疑わなかった。
ひょろ長い草を見つけたとき、タン兄はびっくりするくらい目を輝かせたのを覚えている。『ノビル』と言うらしいその草はそれといった特徴が見当たらない。
一体何なんだ、と困惑したその時、かの植物から鮮明な光が一筋天まで伸びていった。タン兄はそっと歩き出す。僕はなんだか嫌な予感がして全力で止めたが、タン兄は見たこともないほど恐ろしい顔をして、僕のことを強く、あざができるほど強く押しのけて光の中に吸い込まれた。その後のタン兄の行方はわからない。
なぜいきなりこんな話を思い出したかというと、僕の髪が黒髪黒目に変わったからだ。どこかで監視していたとしか思えないほどすぐに教会から手紙が届いた。
この世界は神々の練習場なのだそうだ。世界を創るほど育っていない神々が、どれだけ壊しても怒られない練習場。いつになるかはわからないが、破壊の練習も確実に行われる。ここから抜け出す赦しを得た証が、黒髪黒目なのだという。
抜け出すための儀式は、全世界の植物の中でたった一つしかない光の柱を放つ植物を見つけ、その光に入ること。そう。たった一人しか救われないのだ。
僕に贈られた教会名は『スノードロップ』。僕はもう、差別とともに壊されゆく世界を見るしかないらしい。
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