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だから彼女は樹を植えた
ざく……ざく……ざく……
夜明け前、街を覆う白い靄の中で、土を掘る音だけが響いている。
「なにをうめてるの?」
「内緒」
「みてていい?」
「ダメだ。あっちに行け」
好奇心をむき出しにしたあどけない声に、いらだちを隠さない野太い声が答える。
「ここは危ない。さっさと向こうに行け」
それとも、お前も埋められたいのか?
さっきとは別の粗野な声が問うと、あどけない声の持ち主は怯えたように沈黙した。ぱたぱたと軽い足音が遠ざかっていく。
とさり
唐突に足音が途切れ、何かが倒れたような音。
白い靄の中、小さな影がむくりと起き上がる。
「なにこれ……?」
足元にはいくつもの、巨大な芋虫のような何か。
一抱え程の大きさのソレらは、白い布にくるまれて、ぴくりとも動かない。
「お前には関係ない。いいから行け!」
荒々しい怒鳴り声に驚いたのか、小さな影は小さく飛び上がると、慌てたように走り去った。
夜が明けて、白い靄が晴れたあと、街の外れには巨大な穴を埋めた痕が残っていた。埋め戻されたばかりの土には、無数の軍靴で踏み固めた形跡。
やがて小さな影がやってきて、黒く湿ったままの土に苗木を植えた。
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