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さよなら、周平
「日焼け嫌いでもいいけど、家に閉じこもるなよ」
「うん、うん!」
「あとは……まあ、おまえの好きなように生きろ」
「周平……」
「俺は野菜が好きだから、こんな生き方をしたんだ。じゃあな、蒼太」
「うん。さよなら……周平」
僕は照りつける太陽の下、げんこつトマトを収穫しました。
ビニール袋に入れて、近所の人に配りました。みんな、みんな、周平……いや、がんこじいさんのことを話してくれました。がんこじいさんはいつも、いろいろな野菜を近所に配っていたそうです。
僕は自分の分のげんこつトマトをビニール袋に入れると、駅へ向かいました。
「今日は日傘はいいかな」
いまは、強い太陽の光を全身に浴びたかったんです。
僕を待って、終わらない八月十四日を生きてきた周平。彼はどんな気持ちで、げんこつトマトをつくってきたんでしょうか。
歩いてきた道を振り返りました。
夏のゆらめく陽炎。目をこらすと、周平の姿が見えるような気がしたんです。
でも、周平はもうどこにもいません。
鮮やかな夏空を見上げて、僕はあまりのまぶしさに目を細めました。
【了】
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