がんこじいさん!?

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がんこじいさん!?

「本当に懐中電灯は家にないんですか?」 「一階にないなら、あとは二階を探すだけだ」 「僕、探します!」 「こら、暗いのに階段を登ったら……」 「大丈夫ですよ!」 僕は階段を登り切りました。 「おーい、蒼太。突き当たりのトイレのなかにないか?」 「あ、ありました!」 僕は階段を降りようとしたんですが……。 「うわ、うわわわわ!?」 「何やってんだ、蒼太!?」 周平の大きな声。どこかで聞いたことがあるような気がします。 そうでした。 僕は小さい頃、日焼けなんてへっちゃらでした。 ギラギラの太陽の下、汗をかきながら、幼い僕は毎日のように畑のなかを走り回っていました。 みずみずしいきゅうり。ほくほくしたじゃがいも。苦味が癖になるピーマン。ジューシーなとうもろこし。 がんこじいさんがくれる、たくさんの野菜。僕は野菜をお腹いっぱい食べていました。 最後に会ったとき、がんこじいさんは僕を怒鳴ったんです。 僕が、畑のなかに隠れていた、おおきくて真っ赤なトマトを見つけたから……。 『何やってんだ、蒼太』って……大声で……。 「蒼太、蒼太」 「ん……」 「大丈夫か?」 「あれ?」 「階段を転がり落ちたときは、肝が冷えたぞ。受け止めることができてよかった」 「周平……がんこじいさんって知ってますか?」 「がんこじいさん?」 「僕のじいちゃんの兄で、この畑の持ち主だったんです」 「そうか……おまえは、俺のことをがんこじいさんと呼んでいたのか」 「え?」 「蒼太、落ち着いて聞けよ。おまえの言っている、がんこじいさんは俺のことだ」 「え……嘘!?」 「蒼太、野菜は子供の味方だ!」 「その言葉!」 「漫画やアニメの子供が野菜嫌いだから、野菜は泣いているんだ。蒼太は野菜を悲しませてはいかんぞ!」 「じいさん……本当に、がんこじいさんなの?」 「ああ」 「じいさん……! どうして、若返ったんですか?」 「蒼太が家に来なくなった夏に台風が来たんだ。停電して、懐中電灯を二階から取りに行こうとした。階段を転がり落ちて、気づいたらこの姿だ」 「それから、ずっと……?」 「ああ、八月十四日をやり直している。きっと本当はあのとき、頭でも打って俺は死んだんだ。でも未練があって、畑をずっと耕して……」
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