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甘くて、濃くて、最高です!
「なんで……」
「俺には理由がわかった気がする。ほら……蒼太。朝が来た」
「あ、日付けは……」
僕はスマホを見ました。
「十五日になっています!」
「蒼太に会うためだ」
「え?」
「俺は蒼太に会うために、終わらない八月十四日を生きてきたんだ」
「周平……」
それから毎日、僕と周平は畑作業をしました。
げんこつトマトの苗は、ぐんぐん大きくなりました。
夏の終わりのやわらかな風が吹く日。畑の奥で、周平が手招きをしていました。僕は、草を踏んで周平の元へ向かいました。
周平が指差す先には……。
「ほら、食べごろだぞ。蒼太」
「……いらない」
「どうした? ツルからプチッともいで、ガブリってしたかったんだろ?」
「僕がげんこつトマトを食べたら、周平の未練はなくなるんですよね? いなくなっちゃうじゃないですか……」
「蒼太。あの日みたいに齧りつけって、ほら」
「あの日って……。僕が熟したでっかいトマトを齧ったら、周平、怒鳴ったじゃないですか」
「あ、あー……そうだったなあ」
「だから、僕はこの畑に来るのをやめたんです」
「白いTシャツが真っ赤になってたからだよ。転んで血が出たのかと思ったんだ」
「おいしそうなトマトを食べたからじゃないんですか?」
「ちがう、ちがう! もしかして、そのあとのこと覚えていないか?『来年の夏は、新しい品種のトマトを植えるから食べに来いよ。太陽が空から落ちてきたみたいな、おっきいトマトを食わせてやるからな』って、俺はおまえと約束したんだ」
「その新しいトマトって……」
「このげんこつトマトだよ」
周平は、げんこつトマトをもぎました。
ひときわ大きくて、真っ赤なトマトを。
「やっと、蒼太に食わせられる。ほら、食わないと。おまえが食わないと、俺はまた八月十四日を繰り返すことになるんだぞ」
僕は、げんこつトマトを齧りました。
太陽の力で大きく育った、げんこつトマトを。
「どうだ?」
「甘くて、濃くて、最高です!」
「そりゃ、よかった!」
「周平、体が……」
周平の体が透き通ってきました。
「まあ、願いが叶えば、俺がこの世にいる意味はないもんなあ……」
「ちょっと待って、周平!」
「蒼太! 残りのげんこつトマト、収穫しろよ!」
「うん!」
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