合コン帰りの居眠り注意!

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「え?ここ、どこ?」  見渡す限り、木、木、木、つまり森のような場所だ。おかしい。  あたしは今日、無事に仕事が終わり、合コンなるものに参加したい!と大学生で体験しなかったんかい!などと野暮なツッコミを入れてはいけない同僚に付き合って安酒を飲むために、合コンが行われる少々お高めのお店へ行って二次会に行くという件の同僚たちを見送り、電車に乗った。  そこまでは覚えている。ちなみに、安酒とは本当に安いお酒を飲むのではなく、謎の女性はお安い会費ってやつと、渋々お付き合いしたお礼だと同僚が多めに負担してくれたという意味だ。  で、調子に乗って人から出してもらって飲むお酒は美味しいなぁ~などと、調子に乗って飲んでいたのも覚えている。そのせいで一次会みたいな合コンだと言うのに、足元が怪しかったし、好みの男なんてもちろん居なかった。  だから·····。 「電車でめちゃくちゃ寝てたわ·····」  そう自分でもびっくりする程ストンと深い眠りに落ちていた、と思う。 「それでも、ここはおかしい。普通、どっか終点で駅員さんが起こしてくれるか、それが無くても車庫でしょ」  なのに、周りは森のような場所·····というか、どうやって帰ればいいんだ?この辺りの地理も分かりそうにないし。困ってカバンからスマホを取り出す。しかし、あいにく電波の届かない所らしい。 バサバサ 「!あ、フクロウが飛んだのか、びっくりさせないです」  いや、酒の飲みすぎでこんな所にいる時点でびっくりだけどね。軽くパニックを起こしているあたしは、なぜかフクロウが居て当たり前、などと受け入れているが、あとから冷静に考えればそんな場所に高々電車で寝過ごしただけで辿り着くなんてありえない。  その事実すら忘れかけそうになりながら、慌ててどこか安全そうな場所を求めて、無闇に歩き出した。 「だいたい、電車系の都市伝説って『きさらぎ駅』とかじゃないの?いや、ホラー嫌いだから別にいいんだけど」  できれば、熊とか猪にも遭遇しませんように、と祈りつつ合コン参加者らしくめかしこんでいたヒールの高いサンダルが時折、地面にめり込む。その度に、コケそうになるが酔いは覚めたのか、何とか無様にコケるのは防げた。  そうして何時間歩いたのか分からないけれど、ずっと木ばっかり見えていた景色が変わった。 「あれ、小屋?」  童話なんかに出てきそうな木こりや赤ずきんちゃんのおばあさんが住んでいそうな小さな木の小屋がポツンと建っていた。  当然、夜中から夜明けの間の時間なので中は真っ暗だ。一つ大きな窓がある上に、カーテンはかかっていないらしい。おそらく近づいて中を覗いたら誰か居るのかわかるだろう。  誰も居なければ、夜明けまで一休みさせてもらいそのまま朝を迎えたら急いで出ていこう。もし、誰か居れば仕方ないがまだ歩こう。流石にあたしも人を叩き起して泊めてくれ!などと言う厚かましさは無い。  そーっと小屋に近づいて、中を見るとカーテンがないことから薄々気付いていたが、誰も居ないようだ。  死角の所に人が居る可能性も考えて玄関までゆっくりと回り込み、更に慎重に扉を開けた。 「·····鍵もしてないなんて、最近誰か出ていったのなら助かるんだけど」  隙間を少しづつ広げながら恐る恐る首だけ中を覗くために、隙間に入れた。するとなにかに引っ張られるように全身が前に体重を預ける形で傾いてしまった。 「わ!」  驚きの声を一瞬あげた後、床とご対面することを予想して目を瞑る。しかし、待てと暮らせど痛みがない。むしろ····· 「温かい?」 「やあ、お姫様。やっと来てくれた」  誰、ストーカー?いや、いた覚えないけど。それとも、お化け?にわかに慌てたあたしは、多分抱きしめて居る温もりから逃げるように身体を動かす。  残念ながら全く解放されず、仕方なく目を開けて自由になる頭を少し上へ向けた。すると、予想もしていなかった暗闇でもわかるレベルのイケメンがそこにあった。 (え、目の前に顔面があれば、イケメンがあったって言葉で正解だよね?違う?)  もう誰にたずねているのかわからないくらい、脳内は予想外の展開に混乱しているらしく完全にフリーズしてしまった。  人はパニックになると、こうなるのか。脳内はあくまで他人事として、考えて現実逃避をしようとしているみたいだ。 「ああ、なんだ。忘れてるのか。小さい頃約束しただろ?君が大人になったらこちらに迎えるって」  ちょっと失敗して、森に呼んでしまったけど。その当たり前のように言って、あたしの額に口付けをしたことを認識した後、あたしは数日気を失うのだった。  まさか合コン帰りに異世界転送なんて展開が待っていた·····なんて、この時のあたしは、パニックと歩き疲れで倒れ、気付いた時にはふかふかのベットでしばらく監禁される未来が待っているとか知る由もなかった。
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