四章

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 当事者でなくとも、目の前でこんな事を言われたら足がガクガクと震え出してしまう。それに気づいた深守はすかさず「アタシに引っ付いてなさい」と私を寄りかからせた。  瞠目する空砂さんに耳を傾けず、羅刹様は微笑むだけだ。微笑んでいる、様に見える。  一方で空砂さんは表情は余り変わらなくとも、死に対する脅威から逃れようとしていた。だけど、羅刹様の灰色の気配は空砂さんを離さない。 「……駄目、なのか。これから……罪滅ぼしをしながら生きてゆくという…選択肢は、存在しないというのか」  空砂さんは呟く。  すると、ずっと平伏していた鬼族の上役の一人が顔を上げて「……羅刹様の最後の願いを叶える生贄は空砂様じゃ」と口にするのが聞こえてきた。 「そうじゃ、そうしてしまえば良い。親子じゃからのぅ」  隣に伏せていた鬼族も言った。  凶暴化していた彼らは、どうやら元に戻ったようだった。心臓を撃たれていた為心配していたが、命に別状が無いとわかり安堵する。 「羅刹様と共に死ぬのは空砂様で決まりじゃ」 「これで女子を食わせる必要も無くなる」 「……良い最期では無いか。一つの時代の終わりじゃ」
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