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彼らは思い立った様に話し始める。
どうやら彼らは、羅刹様が空砂さんを選んだ事に喜んでいるようだった。ただ、生贄の仕来りに懲り懲りしているというよりは、笹野結望の代わりになる存在がいれば良い――という意味合いだったけれど。
「……逃げ場が無くなりましたね、彼」
海祢さんは静かに言った。
「でも……、どうするんだろう」と、想埜は海祢さんの方を向く。
「……ここまで来たら見守るしか、ないかもね」
「…………」
心配そうな想埜の左肩を海祢さんはぽんぽんと優しく叩くと、先程海萊さんが腰を下ろしていた木箱に腰を下ろさせた。
「……っ何故じゃ、何故……抜け出せぬのじゃ」
羅刹様は逃げ出そうと幾度となく試みるが、やはり動けずにいた。
その間にも羅刹様は、黒い霧の様なもので空砂さんをがっちりと固定してしまう。絶対にもう逃げられないと確信した彼は、実の父親である羅刹様を目の前に初めて絶望の色を見せた。
『……さぁ、空砂よ。その刀で貫くが良い』
威厳に満ちた声で鬼族の長は言った。
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