四章

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 空砂さんの身体が、空砂さんの意思とは反対に動き出す。刀を両手で構えると「やり直せぬのか……」と、反抗する度にガクガクと揺れる手を見詰める。 「……っ」  私は咄嗟に深守に抱き着いた。  いくら敵で、忌み嫌う人達が多い存在でも、彼にも意思があって己の信じるままに生きてきたのだから、死ぬところなんて見たくなかった。本当ならば全員生きるべきなのは変わらない。  だけど、羅刹様の意向に従うのも里で生きるなら大切で、長が決めた事に反論することは出来なかった。 「結望」  深守は私を離さんとばかりに抱き締める。  ――そして、その時はやってくる。  深守に抱き締められて、目を閉じて、それから腹部に鋭い痛みが走った。 「……っ結望!!!」  猛烈な痛みと、脱力感に直ぐさま目を開ける。視界が少し不鮮明だったけれど、深守が私の事を血相を変えて見ているのがわかった。 「え……」  私は自身の腹部の違和感と、ぬるっとした感触に言葉を失った。 「儂が……、儂が、死ぬべきならば……一族諸共滅べば良いのじゃ。……故に、お前も共に死ね、生贄」  空砂さんは羅刹様を貫きながら言った。貫いている彼もまた、腹部を赤く染めている。
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