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(………綺麗な、瞳だった)
そう思いがらも、私も流石に帰らなくてはと立ち上がる。
見たいと思ったであろう狐には会えた。怪我をしてしまったけれど、このくらいならすぐに治るし気にすることもない。
私は森を抜け家に戻ると、すぐさま患部を水で洗い流した。
「何やってるんだ?」
そこへ仕事帰りの昂枝がやって来た。私より長く茶色い髪の毛を束ね、浅葱色の袴を身にまとった神職姿はきっと、村の女の子達から人気が高いだろう。境内は村人がいるのでなかなか行くことはないが、仕事をしている昂枝を見てみたいとも思う。
「ちょっと怪我をしてしまって…でもかすり傷だから」
「そうか…。早く治るといいな」
昂枝は心配そうに私を見つめると、「ん?」と疑問の声を上げる。
「どうしたの…?」
「いや、すまん……。どこも怪我してないように見えたから」
「……?」
私はぐっと足に近づけ凝視すると、目を疑った。
さっきまであった傷口が跡形もなく消えているではないか。
「え…何故…」私は親指と人差し指の間を触る。痛みも、ざらっとするはずの傷口の感触も、何も感じない。だけど、草履の鼻緒は見事に切れて修理が必要な状態であるのは間違いないし、足袋も赤く染っているままだ。
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