一章

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(表面だけ……だなんて言っては駄目ね。感謝しかないんだもの)  もっともっと貧しい人達がいる事も忘れてはいけないし、何より今の私は幸せだ。  正直、許されるのなら――このままでいたいという気持ちさえある。  考えながらも、いつものように家事を一段落させた。  私は何となく、「…狐さん、よければ一緒にお茶でもいかがですか?」と言ってみる。  狐なんかがお茶なんて飲めっこないのに。そもそも此処にあの狐はいない。私は途端に恥ずかしくなり、首をぶんぶんと横に振ると口に出した事を後悔した。  一人居間に座りながらお茶を飲むこの時間も嫌いではない。家事を済ませた後に飲む温かいお茶はとても美味しいし、ほっと一息とはこの事だと実感するから。宮守家は村から少し奥まった場所にある為、苦手な妖葬班の声もあまり聞かずに済むのもありがたい。 「…落ち着く」  私はまた一口お茶を啜った。 (………)  ──炊事までまだ時間がある。  お茶を飲み干し片付けると、外に出る支度をした。大丈夫、そもそもが森に包まれた境内だ。奥の奥に行くわけではないし、ただ散歩をするだけ。行動が変だと村人に見られる事も…ないはずだ。
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