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空間は閉塞的で大した明かりはない。それでも作業に困らないのは沢山のモニターから放たれる光のおかげだ。機械を継ぎ足し続けた部屋の配線は迷路のように入り組んでいる。 少女は気づいたらそこにいた。今、分かるのは自分の名前と目の前に倒れているのが父親だということだけ。 少女――タチアナが手にしている鋭利な刃物からは血が滴り落ちている。ショックで脱力した手からそれが滑り落ちた。 カランッ 「……私が、やったの…?嘘…パパ!ねぇ!起きてよパパ!」 軽く揺すってみるが父親は出血していて動かない。叫び出しそうになるタチアナの頭に声が響いた。 『タチアナ。いい?よく聞いて。緊急事態(パニック)になった時こそ、慌てちゃダメよ?深呼吸して。そうしたらきっと状況はよくなるわ』 それは昔、母のダイアナから聞かされた言葉だった。 「……ふぅ。そうだ。ママが言ってた。少しだけ考えてみよう。どうして私は、ここで、こんなことになっているのか」 タチアナは小さく深呼吸すると、モニターの電源を切るように目を閉じて自分自身を暗闇へと誘った。
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