3 処刑

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「父上! 私にもください!」  声の主は、先ほどレイファス第四王子に静止の声を上げたリチャード第二王子だ。  狐の血を色濃く引き継ぐ王子は、奴隷を使って狩りをすることを好んでいるため、消費が激しい。  サディストで有名なシルバーブロンドの狐王子は、常に彼の獲物を求めている。  もちろん、今回の緋色の一族に関しても、リチャード第二王子はおこぼれを得ようと画策していた。しかし、ほかでもない父王が、緋色の一族は全員処刑すると断じてしまったのだ。だから、貪欲な第二王子が泣く泣くおこぼれをあきらめたというのに、父王はこの期に及んで、緋色の一族をすべて第四王子に与えるという。  だから、リチャード第二王子は叫んだ。  鈍い藍色の瞳を嫉妬で染めあげ、牙を剥くようにして声を上げた。  目が吊り上がり、髪は逆立ち、今にも獣の姿に転変しそうな気配をみせている。  そんなリチャード第二王子を見て、会場のざわめきは、さらに大きくなった。  第二王子は第四王子を止めるのかと思いきや、緋色の一族の身柄を手中に収めるという私利私欲のために、争奪戦に参加し始めたのだ。処刑を愉しみに会場に集まった者達から、不満が漏れるのも致し方ない状況である。 「レイファスに三人渡すくらいなら、私にも一人!」 「ならぬ」 「父上!」 「控えろ、愚か者が!」  ラザックが怒りの声と共に、とうとう獣の姿を露わにした。  三メートルに届こうかという体躯。  顔は獅子に酷似しており、漆黒の鬣に、歯をぎらつかせながら咆哮する姿は、悪夢を思わせる。  その巨体、ビリビリと空気を震わせるその叱咤に、会場中が震え上がった。  リチャード第二王子も、人型のまま立ちすくんでいる。  国王ラザックは、第二王子のその姿に眉根を寄せながら目を細めると、すぐに興味を失ったような様子で目を背け、第四王子を見た。 「レイファス。本当に、誕生日の贈りものはそれでよいのだな」 「もちろんです」 「ならばそうしよう。養殖は要らぬが、戯れならば好きにするがよい」  会場は静まり返っていた。  この国に、ラザックの声をむやみに遮る者はいない。  どれほど不満に思ったとしても、ラザックがこの国の主なのだ。  彼らの獣の本性が、この国で最も強い生き物であるラザックに従うことを強要する。 「この者達は、レイファスに下賜する。以上だ」  -◇-◆-◇-◆-  こうして、シルフィリア達は牢に戻された。  牢に戻った後、シルフィリアは手の震えを止めることができなかった。  暴虐の狼王子の所有物となることの意味を考えれば考えるほど、震えは止まらない。  ここで自ら命を断つべきだろうかと、シルフィリアは思案を巡らせる。  シグネリアの王族は、いざという時のために自決用の薬と、解毒用の薬を隠し持たされている。  治癒魔法の守り手としての責務を果たすため、一族の誇りと叡智の結晶として生み出された、強力な効果を持つものだ。その秘薬を使えば、きっと苦しみを感じることなく、命を断つことができるだろう。  しかし、そうした場合、残された弟と従弟はどうなるのだろうか。  シルフィリアが身を捧げることで、二人の身の安全が確保できるのだとしたら。  決断することができないまま、シルフィリアは牢の中で一人、身を抱えて震えていた。
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