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まだ、夢を見ているのだろうか。
それとも、記憶が混濁しているのだろうか。
「奏くん!」
俺の名前を呼んで、ベッドの脇で手を握りしめている可愛い女性は、一体、誰なんだ。
「奏くんが目が覚めたのね、良かった……。あ、先生を呼ばなくちゃ!」
どうやらここは病院の個室で、俺の身体にはいくつかの管が繋がれている。
女性が先生を呼びに行っている間に、俺は自分の記憶を整理しようとした。
◆
ーー俺は、ブラック会社の社員で、その日も残業をしていた。会社を出たのは午前0時を回っていて、タクシーも捕まらず、仕方なく家までの数キロを歩いて帰る羽目になった。
その途中でコンビニに寄り、適当に買い物したあと、横断歩道を渡っていた時だった。
車のヘッドライトが近づいて来たと思った瞬間、身体に衝撃が走り、遠のく意識の中で、撥ねられたのだと悟った。
◆
ここまでが、俺の記憶。
勿論、先程の女性も知らない。
撥ねられたのだから、誰かが通報して病院に居るのは分からなくもない。そして、生きている。どれだけ意識が無かったのかは分からないが。
そんな事をぼんやり考えていると、廊下を走る音がして、病室の扉が開いた。
「飯島さん! ここが何処だか分かりますか?」
「自分の名前は言えますか?」
矢継ぎ早に医師らしき人物と、看護師に聞かれ、声を出そうとしたが、うまく発声出来なかった。
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