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意識が戻った俺は、次の日に検査を受けたが、脳に異常は無いとの診断だった。
「奏くん、異常なくて良かったね。そうだ、今日はお義父さんとお義母さんがお見舞いに来るって言ってたよ」
甲斐甲斐しく俺の世話をするこの女性は、美影という名前だった。どうやって出会い、いつ結婚したのか疑問は尽きなかったが、しばらくは何も言わずに探ることにした。
それに、父さんと母さんが来るのなら、そこで何かしら分かるかもしれない。
もし、父さん母さんが、俺の知っている人ではなかったら、俺と同姓同名の別人と入れ替わっている可能性が出てくる。いや、そうなるのだろう。その場合、話が噛み合わなくて困るな……。
悶々と考えていると、扉がノックされた。
「奏!」
聞き覚えのある声だった。紛れもなく、俺の知っている父さんと母さんが立っている。
母さんが俺のベッドに駆け寄り、ギュッと手を握ってきた。父さんは涙ぐんでいるようだ。
ここで、俺は『飯島奏』なのだと確信したと同時に、美影という女性への謎が深まった。
「美影さん。結婚早々、大変だったわね。色々ありがとう」
「お義母さん……」
「奏、お前を撥ねた奴は捕まったからな。飲酒運転だったそうだ」
喋れない(正確には、意識して喋らないようにしている)俺を差し置いて、3人は本当の家族のように見えてくる。本当に、どうなってるんだ。
「そうだ、お前の会社の社長さんが、見舞いに来たいと言っているが、どうする? まだリハビリも始まっていないし、先延ばしにしてもらうか?」
父さんから出た言葉に、俺は唖然とした。俺の会社はブラックで、社長をはじめ役職のある奴らは、社員がどうなろうとお構いなしのはず。その社長が、社員の見舞い?
やっぱり、全てがおかしい。俺の知っている俺は、どこへ行ったんだ?
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