事故から目覚めたら、知らない人と結婚していました。

4/9
前へ
/9ページ
次へ
「あなた。奏はまだ目覚めたばかりなのよ。お断りして」  母さんが言ったのを肯定するように、俺は頷いた。 「そうだな。……悪かった、奏」  母さんのほうが父さんより力関係が強いのは、俺も知っている。やはり、この両親は本物の俺の両親のようだ。となると、一番不可解なのはーー。 「奏くん、どうかした? 眉間にシワが寄ってるけど……頭痛い?」  そう言いながら俺の顔を覗き込んでくる、この女性の存在だ。さっき、母さんが『新婚早々』というような事を言っていた。何度も言うが、俺の記憶では、結婚はしていない。この女性も全く知らない。……まあ、可愛い女性だけど……気味が悪い。 「奏、無理はダメよ。少し休みなさい。美影さん、悪いけどあとはお願いね。母さんもお父さんも仕事があるから帰るわ」 「ああ、また来るよ。リハビリ、頑張るんだぞ」 「お義父さん、お義母さん、ありがとうございました」  扉が閉められ、女性とふたりきりになると、何故か部屋の空気が淀んだ気がした。 「……奏くん。もしかして、私のこと、覚えてない?」  いきなり確信をつかれて、パニックになる。 「ふふっ、良いのよ。だって……当たり前だもの」  喉がヒュッと鳴る。気付けば身体は金縛りにあったように、指先ひとつ動かせない。 「奏くんは、ブラック会社の社員で、彼女も居ない。仕事が忙しすぎて、他の社員とも、まともに話したことがない」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加