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「あなた。奏はまだ目覚めたばかりなのよ。お断りして」
母さんが言ったのを肯定するように、俺は頷いた。
「そうだな。……悪かった、奏」
母さんのほうが父さんより力関係が強いのは、俺も知っている。やはり、この両親は本物の俺の両親のようだ。となると、一番不可解なのはーー。
「奏くん、どうかした? 眉間にシワが寄ってるけど……頭痛い?」
そう言いながら俺の顔を覗き込んでくる、この女性の存在だ。さっき、母さんが『新婚早々』というような事を言っていた。何度も言うが、俺の記憶では、結婚はしていない。この女性も全く知らない。……まあ、可愛い女性だけど……気味が悪い。
「奏、無理はダメよ。少し休みなさい。美影さん、悪いけどあとはお願いね。母さんもお父さんも仕事があるから帰るわ」
「ああ、また来るよ。リハビリ、頑張るんだぞ」
「お義父さん、お義母さん、ありがとうございました」
扉が閉められ、女性とふたりきりになると、何故か部屋の空気が淀んだ気がした。
「……奏くん。もしかして、私のこと、覚えてない?」
いきなり確信をつかれて、パニックになる。
「ふふっ、良いのよ。だって……当たり前だもの」
喉がヒュッと鳴る。気付けば身体は金縛りにあったように、指先ひとつ動かせない。
「奏くんは、ブラック会社の社員で、彼女も居ない。仕事が忙しすぎて、他の社員とも、まともに話したことがない」
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