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美影の一言一言が胸に突き刺さる。心臓はドクドクと厭な音をたて、額からは冷や汗が流れた。
「奏くんが私を知らないのも、無理はないよ。私は外注業者で、たまに奏くんの会社に行ってたの。そこで、奏くんに一目惚れしたのよ」
「じ、じゃあ……結婚は……」
やっと絞り出せた言葉に、美影は、さも可笑しそうに笑った。
「私が用意してたの。お義父さんとお義母さんには、奏くんが事故に遭ってから、挨拶が遅れてすみません、実は結婚する予定だったんですって、婚姻届を見せたのよ」
美影は笑いながら続ける。
「ふたりとも、最初は目を丸くしてたけど、私が話した作り話にすっかり騙されて。晴れて奏くんと私は、夫婦になったの」
俺は、怯えるだけで何も出来ない。もし、美影を煽るような事を言えば、今度こそ自分の命が危なかった。
もしかして、俺を撥ねた車も、全部この女が仕組んだものだとしたら……。
「あ、そうそう。奏くんの会社の事だけど。私の会社が買い取ったから」
「……え……?」
「奏くんが寝てる間に、ブラック会社は無くなって、私の勤めてるホワイト会社に大変身よ。良かったわね」
可愛いと思っていた美影の顔は、今は般若のようになっていて、俺は動かせない身体でブルブルと震えた。
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