事故から目覚めたら、知らない人と結婚していました。

1/9
前へ
/9ページ
次へ
 まだ、夢を見ているのだろうか。  それとも、記憶が混濁しているのだろうか。 「(そう)くん!」  俺の名前を呼んで、ベッドの脇で手を握りしめている可愛い女性は、一体、誰なんだ。 「奏くんが目が覚めたのね、良かった……。あ、先生を呼ばなくちゃ!」  どうやらここは病院の個室で、俺の身体にはいくつかの管が繋がれている。  女性が先生を呼びに行っている間に、俺は自分の記憶を整理しようとした。 ◆  ーー俺は、ブラック会社の社員で、その日も残業をしていた。会社を出たのは午前0時を回っていて、タクシーも捕まらず、仕方なく家までの数キロを歩いて帰る羽目になった。  その途中でコンビニに寄り、適当に買い物したあと、横断歩道を渡っていた時だった。  車のヘッドライトが近づいて来たと思った瞬間、身体に衝撃が走り、遠のく意識の中で、撥ねられたのだと悟った。 ◆  ここまでが、俺の記憶。  勿論、先程の女性も知らない。  撥ねられたのだから、誰かが通報して病院に居るのは分からなくもない。そして、生きている。どれだけ意識が無かったのかは分からないが。  そんな事をぼんやり考えていると、廊下を走る音がして、病室の扉が開いた。 「飯島(いいじま)さん! ここが何処だか分かりますか?」 「自分の名前は言えますか?」  矢継ぎ早に医師らしき人物と、看護師に聞かれ、声を出そうとしたが、うまく発声出来なかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加