矢車菊を冠して

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 花が咲いていた。透き通るように青い、繊細な矢車菊。暖かい陽射しに心地よい風が、花を、ひとりぼっちだった私のワンピースを揺らす。いつもと変わらない、春の一日。  ……になるはずだった。  こんな快晴なのだから、ひさしぶりに丘陵の端まで行こう。きっかけはふと思い立って、腰まである青い海をかきわけ、少しの昇り始めた太陽のほうへ歩いたこと。このときの私に拍手を送りたい。一人だから、つくった花冠を独占できるなんて、はしたない考えしか抱いていなかったはずなのに、世界一の友達に出会えたから。  そう、人間みたいに二本足で、矢車菊に埋もれそうに立つ猫は、絵本みたいにかわいらしかった。ついつい抱きしめてしまいたくなるくらい。けれどこれは間違いだったらしい。  ばたばたと手の中で暴れる姿は、ぬいぐるみのようではあったが少し爪が痛い。 「君は花冠が好きだったな」そんなことを言う猫に、誰だよと思ったのはほんの一瞬のこと。ほんとうは別に誰だってよかった。一緒に花冠をつくって話せるのなら。過ぎたときのように過ごせるのなら。  他愛ない話、ふざけて一人で笑う猫。沈黙すらも幸せだったような気がする。それでも5時を告げる音楽は流れ、刻々と夜に近づいていく。今日は遅くなっても、しかたないな。そんなことを思いながら、私は誰にも贈ったことのない青と白の花冠を、小さな猫の頭にかぶせてあげる。いつのまにか西の空へ移った太陽に染められて、猫は目を輝かせて私を見上げてくれた。
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