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恋してる?
次の日の朝、美緒はいつもより早く学校についた。
雲行きが怪しかったので、雨が降る前にと、急いで登校したのだ。案の定、途中で雨が降り出し、学校につくと同時に土砂降りになった。
ギリギリセーフ。教室には美緒の他にまだ数人しか来ていない。心音もまだいない・・・・・・。
美緒は自分の席から窓の外を眺めた。水滴が窓をつたって流れていく。
雨はますます激しくなっていた。
美緒は両手の指を絡ませ顎を乗せた。
誰かを好きになるって、どこからだろう。もう1度会いたいと思ったら、もう好きになっているということだろうか。
わからない。
手首にそっと触れてみる。維紗に引き止められたときの感触が、まだ残っている。昨日の放課後からずっと・・・・・・。
私は維紗をどう思っているのだろう。自分でもよくわからない。
冷静に考えれば考えるほど、自分は維紗のことが好きなのではないかと思えてくる。でも違うのだ。私が好きなのは維紗じゃない。
維紗と理想を重ねているだけなのだ。これは、ほんの一時のトキメキにすぎなくて、数日経てばきっとまたどうでも良くなるに違いない。
でも本当にそうだろうか?
考えと気持ちがぶつかって、胸の奥が苦しくなる。それでいて甘やかなのはどうしてだろう。
美緒は今まで抱いたことのない感情を持て余していた。
「美緒?おはよ?」
突然、横から声をかけられる。いつの間にか心音が横にいた。
「心音!」
「わ!?何?」
勢いよく飛びついてきた美緒に、心音は引き気味だ。
「会いたかったー。」
「え?会いたかったって、休んだの1日じゃん。」
とにかく今は、心音に昨日の事を聞いて欲しかった。
「何?なんかあったの?もしかして王子様?」
さすがは心音、察しが良い。私は昨日のことを話して聞かせた。
「・・・・・・それで、確かめてみようと思って会議室の方に行ったんだけど、」
「え!美緒1人で?バカじゃないの?どう考えても危ないじゃん。」
「うん、そうなの。それでさ、行ったらさ、」
ピンポンパンポーン
急に放送が入る。私は仕方なく口を閉じた。
『全校生徒に連絡します。』
教頭先生だ。
『現在非常に激しい雨が振っており、これからだんだん酷くなることが予想されます。』
生徒の期待に満ちた囁きが、さざ波のように広がっていく。
『また、いくつかの電車は既に運行を停止しており、帰宅できなくなる可能性があるので、本日は休校とします。現在学校にいる生徒の皆さんは速やかに帰宅して下さい。繰り返します。現在非常に激しい雨が・・・・・・。』
生徒がガタガタと席を立って、荷物をまとめ始める。
「美緒、今日なにで来たの?すぐ帰れそう?」
心音が心配してくれる。
「あ、私、帰れないや。今日は途中まで送ってもらっちゃったから、迎えに来てもらわないと・・・・・・。」
「すぐ来てくれそう?」
「少なくともお昼までは無理そう・・・・・・。心音はもう帰れるの?」
「うん、むしろ急がないと。次の電車13分後だから。」
「あ。じゃあ、気を付けてね。私は大丈夫。学校で待ってるから。」
「そお?じゃあ、ゴメンね。」
心音はカバンを掴むと急ぎ足で教室を出ていった。他の生徒も次々と帰っていく。
いつの間にか教室は美緒だけになっていた。
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