雨の中で

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雨の中で

「あ、まだ残ってたのか。これから酷くなるみたいだから、早く帰ったほうが良いぞ。」 見回りに来た先生にそう言われ、仕方なく校舎を出てもうすぐ30分経つ。 美緒は、学校近くのバス停の屋根の下でため息を付いた。 少なくともあと2時間は待っていないとだろう。自力で帰れたらよいのだが、滝のように降る雨の中、傘をさして延々と歩く気にはどうしてもなれない。 こうして小さな屋根の下で雨宿りしていると、水の壁の小部屋に閉じ込められているみたいだ。雨の音しか聞こえない。 時々、風に煽られた霧のような雨が美緒を濡らした。 だんだん寒くなってきた。雨に濡れたせいもあるのだろうが、吹いている風がだんだん冷たくなってきた気がする。 (何か買おうかな・・・・・・。) 数メートル先に自動販売機がある。 雨の中出ていくか10分ほど迷ってから、美緒は傘を開いた。 (何買おうかな、) 温かいものが飲みたい。 (お茶?いや、せっかくだから特濃コーンポタージュか・・・・・・。過糖ココアも捨てがたいな。) 葛藤の末、決定を下す。 (よし!ここは過糖ココアにしよう!) 手に持っていた財布から100円玉と10円をいくらか取り出す。 指先が冷えていて動かしにくい。 顎で支えていた傘がずり落ちそうになって、美緒は慌てて手で抑えた。そのひょうしに手の中からお金がこぼれ落ちる。 「あ!わ!」 慌てて拾おうと屈むと、傘がずり落ちた。 ずぶ濡れだ・・・・・・。 「あ〜。」 泣きたくなる。 美緒は傘を拾うのを後回しにして、落ちているお金を拾った。 容赦ない雨が美緒をビショビショにする。 突然雨がやんだ。 目の前に10円玉が差し出される。 「こんなところで何してるの?」 ハッとして顔を上げる。 私の方に傘を傾けて、水無瀬維紗が立っていた。
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