10円分のトキメキ!?

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10円分のトキメキ!?

維紗が私の肩を掴む。そのまま軽く押した。 壁際に追い詰められた私が、維紗を見上げる。 維紗は壁に両手をついて、美緒を閉じ込めた。 二人の視線が絡む。 当に今朝読んでいたシーンみたいに・・・・・・。 維紗と目が合う。しばらく無言で見つめ合う。 維紗はさっきまでとは打って変わって、少し気弱な表情(かお)をすると身をかがめた。ためらいながら、 「10円、勝手に人にやってごめんな。」 吐息が耳朶に触れる。少しかすれた柔らかい声。 美緒は驚いた。まさか彼の口から謝罪の言葉が出るなんて考えもしなかった。 その不意打ちが、美緒の中の何かを激しく揺さぶる。 心臓の音が耳の中でうるさく響いている。 (なんだろう。この感じ・・・・・・、) 永瀬くんに壁ドンされた琴美もこんなふうにドキドキしたのだろうか。 維紗が瞬きして、綺麗なまつ毛が2、3度上下した。 スッと維紗が身を引く。 「こんな感じ?」 得意げに笑う。その表情は自信に満ちていて、さっきの気弱そうな様子は影も形もない。 (少しは余韻に浸らせてよ。) 文句を言おうとしたけど、喉につかえたようになって出てこない。何も言えない美緒を見ると、維紗は満足そうに笑い、 「じゃあな!」 片手を上げて行ってしまった。 「何なの?」 彼の姿が見えなくなってから、口に出してそうつぶやいてみる。 人のいない校舎裏を風が通り抜けていく。 まだ心臓は高鳴っていて、耳朶に触れるとほんのり熱かった。 その日の夜。美緒はベッドの上で膝を抱えて本を開いた。 「なぁ、お前の好きな奴って誰?」 永瀬(ながせ)琴美(ことみ)の肩を掴む。 壁際に追い詰められた琴美が、キッと永瀬を見た。 永瀬が壁に手をついて、琴美を閉じ込める・・・・・・。 「はぁ〜。サイコー!」 本を抱いたまま背中から倒れ込む。ふかふかの枕が受け止めてくれた。 『10円、勝手に人にやってごめんな。』 急に昼間のことを思い出してドキッとした。 「はぁ〜。」 しばらく天井を見つめる。 失礼な男子、維紗の顔が浮かんだ。 気だるそうでいて鋭い目つき。一瞬見せた優しい表情。永瀬が実際にいたら、きっとこんな人だと思い描いてきたそのままの姿。 なんだろう、この感じ。嬉しいのと怖いのを混ぜたような感覚。 「永瀬くんに・・・・・・、壁ドンされちゃった。」 維紗の顔が瞼の裏に浮かんでは消える。それは、いつしか永瀬の顔に変わり、美緒は夢の中に落ちていった。
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