王子様は恋してる?

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王子様は恋してる?

『笹山美緒・・・・・・。』 彼女が廊下を曲がり、その影が消えた後も維紗はしばらくそこにいた。真っ直ぐに目を見返してくる、乾いた視線を思い出す。 維紗は、自分はモテると自覚していた。自慢ではない。むしろその逆だ。過去を思い返してみると、いつも女子の奪い合いに巻き込まれたり、執着にも似た恋心を向けられたりしていた。目を合わせようと熱い視線を送り、やたらと距離を詰めてくる女子たち。自分が女子に感じるのは苦手意識以外の何物でもなかった。 高校生になり、S組に合格できた時は心底ホッとした。S組は閉ざされた空間。関わる人の範囲がぐっと狭まる。現に今のS組は3学年合わせて、9人しかいない。それぞれの学年から、厳しい審査によって選びぬかれたエリートたちだ。(その中に自分も含まれているのだが・・・・・・。) 同学年は自分を含めて2人。もう一人は男子だ。数少ない心許せる友達でもある。 (まぁ、結局あんまり変わんなかったけど・・・・・・。) S組に入ったことで維紗の人気はますます高まった。S組の王子・・・・・・。実に迷惑な話だ。 (あの娘は興味なさそうだったな・・・・・・。) 美緒の顔を思い浮かべる。自分に全く興味がないわけではないようだ。だけどその興味は他の女子とはどこかずれている。それは維紗にとって新鮮で、心地よかった。 (また会えるかな・・・・・・。) 会いたい。なぜかそう思った。そんな自分を不思議に思う。 カバンを肩にかけ直し歩き始める。ひっそりした廊下と対象的に心はざわめいていた。
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