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いつの間にか昼休み
衝撃の(そして初めての)お姫様抱っこから1週間。
あの出来事は夢だったのではないかと思うほど何もなかった。ただ右足首の湿布とわずかに残る痛みだけが、あの日の出来事が現実であることを示している。
「それでさ、」
向かい合ってお弁当を食べていた心音が、卵焼きを口に放り込む。
「美緒はどう思ってるの?彼のこと。」
「どうって・・・・・・。別に何とも。」
「気にならないの?」
「気にならないけど?」
心音は美緒の怪我にいち早く気付いた。そして何があったのか詳しく聞きたがった。結果、美緒は維紗たちとの遭遇からお姫様抱っこまで、詳しく話して聞かせるはめになった・・・・・・。
心音が羨ましがり、呻き声をあげたのは言うまでもない。
『美緒じゃ無関心すぎて、もったいない!!私が代わる!』だそうだ。
そんなこと言われても困る。脚は痛いし、帰る時間は遅れたし、そんなに良いようには思えないのだが・・・・・・。もちろんそんな事を言えば、心音の『私が代わる!』をもう一度聞くことになるので黙っていた。
しばらく無言の時間が流れる。
そこでふと、隣でお弁当を食べていた女子グループの会話が気になった。
「それでさ、別の女子と付き合ってたらしいよ。」
「え?彼が?」
「そうそう。」
「え〜!なにそれ浮気?」
「やっぱりさぁ、モテるからさぁ。」
「でもちょっと無くない?それ。」
「だよね。サラ先輩めっちゃキレてたもん。」
(!!!)
「その女子、見つかったらちょっと怖くない?」
「だねぇ〜。やっぱ先輩としても面白くないだろうし。」
体が固まって動けない。
『サラ先輩めっちゃキレてたもん。』
一気に全身から汗が出たのを感じた。心音は全く聞いていなかったようで、つまらなそうにスマホを見ている。
私はいったん心を落ち着ける。
まず、会話に出てきたサラ先輩は間違いなくあのサラ先輩だ。そして、別の女子が私・・・・・・。だけど幸い、向こうはまだ美緒のことを特定できていないようだ。でも、いつ美緒が新しい彼女だと気付くかわからない。
(ホントにどうしてくれるのよ。)
とんだ厄介事に巻き込んでくれた。
(いや、ちょっと待てよ・・・・・・。)
良いことを思いついた。もし彼女役が美緒だとバレたら、維紗のでまかせだったことを、素直に言ってしまったらどうだろう。別に彼のことを庇う必要は無いのだ。
うん。いい考えだ。少し気が楽になる。安心した私は、ランチタイムを再開した。
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