呼び名

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呼び名

 とある田舎の分校。  とても珍しいことに、生徒数が極端に少ない分校なのに、同姓同名の二人の女生徒がいた。  一人は、文月やよい。  もう一人も、文月やよい。  教師や他の生徒たちは、一人を文月、もう一人をやよいと読んで区別していた。  それでどうやらうまくいっていた。  そんなある日。  転入生がやって来た。  担任の女教師が言う。 「みんな聴いて。この女の子の名前ねえーーなんと、文月やよいちゃんていうのよ」  みな驚き。もちろん、以前からいた二人の文月やよいもびっくりする。 「それでなんだけどねえーー」担任は苦笑する。「この、今度入ってきた文月やよいちゃん、この子をなんて呼べばいいと思う?」  わいわい騒ぐ生徒たち。  ややあって。  一人の生徒が手を挙げた。 「先生。文月と、やよいは、もう使われています。だから、フルネームで、文月やよいちゃんと呼べばいいと思います」  ふむふむそうね、と担任は頷いた。 「それしかないようね。ではこの子は、文月やよいちゃんとフルネームで呼ぶことにしましょう」 「珍しいことだなあ」 「奇跡みたいだ」 「偶然中の偶然」  クラスのみんなは珍事に感嘆した。  それからしばらくして。  希有(けう)なことに再び転入生がやって来た。  その子の名前は文月やよいといった。
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