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 とある夜、六人の男たちはWeb上で会議をしていた。 『井出監督にはリストが届いてますか?』  スタッフの一人である岡田尚久(おかだなおひさ)が画面の向こうから尋ねた。尋ねた相手は映画監督である井出幹也(いでみきや)だった。 「いや、まだ見てないな」 『そうですか、じゃあ共有しますね』  そう言うと岡田は何やら女性の顔と名前や簡単なプロフィールが載ったリストを画面に表示させた。すべて有名な女優たちだった。  この会議は、井出監督の次作映画の主演女優を決めるためのものだった。表向きはオーディションを開催するが、裏側ではほぼ決まっているというものだった。  井出は多くの映画を創ってきており、代表作も数多く、大きな賞も多く手にしてきている。  今回制作予定の「幸福と孤独」は流星文学賞を受賞した話題作で、井出としても是非成功させたいものだった。 『原作者の意向で、主人公の女性役は身長170センチ以上でお願いしますってきてます。ここを壊すと作品にならないと』 岡田の言葉に井出は頷いた。 「原作は読んだが、たしかに高身長の弁護士であることに意味があるわけだしな。その設定を壊すと作品も崩れてしまうな。そこは受け入れよう」 『なので、いまリストアップされた子はみんな170センチ以上の女優です』  主人公は物語の中で20代前半の設定であるのに対し、リストアップされている女優たちは、その前後の実年齢だった。実年齢とそぐわないことは全く問題はなく、むしろ気にするべきところは原作者の希望する「身長170センチ以上」という条件だ。 「ん? 遠藤七海(えんどうななみ)が入ってるのか?」  井出がある女優の名前に目を留めた。
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