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都内のホテルに用意された記者会見場の席に遠藤七海と関係者が着席していた。メディア側には多数の記者がおり、井出もまた離れた席に座っていた。
遠藤七海が立ち上がり、マイクを手に取った。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。私、遠藤七海に関する情報でお騒がせしております。ご迷惑をおかけした方々も多くいらっしゃるとお伺いしています。本当に申し訳ございません」
そう述べると深々と頭を下げた。多数のフラッシュがたかれた。頭を下げている時間は10秒以上もあり、それから遠藤は頭を上げた。
真一文字に唇を結んだ彼女に凛とした強さのようなものを井出は感じた。
フラッシュが収まり始めたとき、遠藤の唇がフッとほころんだ。薄く笑みを浮かべた。
「まず最初に……というか、これが皆さんの知りたいすべてだと思うのですが」
少しもったいぶるように遠藤は話しはじめた。
「私の身長の詐称であるという疑惑でお騒がせしていますが、『詐称』という意味では、そのとおりでした」
詐称の肯定、ざわめくメディアに対し遠藤は笑みを崩さない。
「それではやはり主演女優賞の紹介部分は偽りということですか!」
「原作に準じていないことにどう思われますか!」
「『夢が見つかるまでは』の関係者は知っていたのですか!」
騒ぎ始めるメディアの声に遠藤は動じる様子はなかった。
黒く長い髪を左耳に少しかけるようにかき上げてから、彼女は口を開いた。
「原作に準じていないということはございません。なぜならば……」
時間と空気が凍りついたかのように会見場が静まった。
「私の身長は170センチを超えているからです」
再び、いや先ほど以上に大きく会場はざわめき始めた。
「私の身長は、171センチでした。『1センチ』詐称していました。申し訳ありません」
微笑む遠藤、騒ぎ始めるメディア、その中で井出は呆然と遠藤を見ていた。
それから公開の身長測定となり、電子身長計が用意された。
「スマートフォンアプリで身長を測るアプリをお持ちの方はご使用されてもよいですよ」
と身長計に乗った。ヒールを脱ぎ、素足となった彼女の足は白く小さめで、その高身長を支えられるのかという大きさだった。
身長計は瞬時に彼女の身長を計測した。
「171.4cm」
その数字が表示されたとき歓声が起きた。
その声に何も応えることはなく、裸足のまま身長計を降りた遠藤は、悠然と席へと戻った。
次に遠藤七海は次作映画の宣伝を始めた。秋に公開される映画について簡単な説明をした後に、
「今度は身長の縛りのない映画なのでそこはお気になさらずに楽しんでご覧ください」
と言った。爆笑が起き、会場の空気は急に和やかなものになった。
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