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遠藤七海の身長詐称騒動により『夢が見つかるまでは』への熱が再燃し、映画は異例の再公開が踏み切られた。動員数は予想以上に伸び、興行収入も再公開のみで数億円を記録した。
井出はこの映画を一人で鑑賞した。
井出が5年前に撮ったときと比べて女優としての演技の幅が大きく広がっていると感じていた。
当時は経験の浅さから幼さが前に出ており、儚さこそが売りだったが、それではいつまでもやっていけないだろうと井出は考えていた。
しかし、いまの遠藤七海は、会見でも感じた凛とした強さをスクリーン越しにも感じさせた。
こんなにも伸びる女優だったのか。
エンディングシーンで彼女は、小学生になった娘に優しく微笑みかけた。
その場面を見て、井出は思い出した。
先日の会見後に、遠藤と廊下で会ったときに、彼女の大きな黒い瞳に寒気を感じたことを。あの瞳は何を見ていたのか。
井出は「幸福と孤独」を撮るために、ウェブ会議で彼女をリストアップから外したことも思い出し、自虐的にフッと笑い、映画館をあとにした。
「彼女はまるで魔女だな」
井出は、映画を観た後にそのように論評した。
それを聞いた遠藤七海は「最大の賛辞をいただきました」と返したという。
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