【1】君を好きになった最初の日

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【1】君を好きになった最初の日

「留愛先輩! 夏祭りにギッサ誘っていい?」  パチンと手を合わせ鳴らして、眞田(さなだ)留愛(るあ)にお願いした。  すると、留愛は驚いたような顔をし、言った。 「えっ? 莉咲あんた……、えっ?」  ん? 何か? 「もしかして……好きなの?」 「えっ?」  好き⁉︎ ……誰のことを? え……、あっ。 「ギ、ギッサのことは別に! 好きじゃないよ!」  慌てて手を振り、否定する。  ギッサは別に好きじゃない! 私の好きな人は晁沙(あさ)だから‼︎ 「ふぅーん……?」  どれだけ否定しても、留愛は私のことを疑ってる。  だから、違うって……! 「静かにしてー」 「早く並んでー!」  周りから注意の声がした。  そうだそうだ。今日の朝は学年朝会だった。  私はそそくさと自分のところへ並んだ。 「キュー子!」 「あ! こはちゃん!」  そうだよ私。こはちゃんが私のところ空けてくれてたんだから!  私は中学一年生大山(おおやま)莉咲(りさ)。  今日は金曜日、一週間の最後。ほとんどの人が大好きな日だ。  まぁ、私もその一人なんだけど。  春の終わり頃なのに、もう暑いんだよなぁ~。  そんな事は置いといて。学年朝会、学年朝会。 「今日から、私語0エブリデイをしたいと思っています」 「えぇっと、私語0エブリデイとは……」  なるほど、私語0エブリデイね。最近私語多いもんね~。  一年部の生徒会は、簡単な劇を披露した。 「ねえねえ、この前ギッサ描いたじゃん! 今日ギッサ、そのポーズしてたよね! アッハハ‼︎」  私は仲良しの和田(わだ)惺那(せな)ちゃんに話しかけた。 「えっ? そうだっけ?」 「だってさー……見てみて!」 「ほ、本当だ! アハハッ!」c9d48aa0-0069-4233-b936-6d4b12b68bda 和田ちゃんと私が大笑いしていると、当の本人のギッサ、いや、可佐木(かさぎ)隆太(りゅうた)が来た。  どうしたの?って聞いてきたから、私が絵を見せると、本人も笑い出した。 「え待って。怖っ! 超能力者……⁉︎」  ギッサは驚いている。  その顔を見てなんだか照れてしまい、目を逸らした。  ……あれ? なんで私は照れたんだろう?  ……うーん、まあいいや! とりあえず一時間目の準備しよっ。 「お前さ~、マジでウザい……」 「友永もウザいけどなっ!」  また前の席の友永(ともなが)(なつ)が授業中に話しかけてきた。  コイツいつも自分から話しかけるくせに、「お前ダルい」とか「黙れ、話しかけんな」とか言うもん。ガチまじダルウザ男子。  でも時間が経つと段々話しかけなくなり、私と夏の間に沈黙が流れる。  そして、二人ともしっかりと授業を受けるのだ。  私はいつもノートに落書きをする。今日もする。  でも今日はオリキャラじゃなくてギッサだった。どうしてかは分かんない。  チラッとギッサを見るたび、ドキッとして目を逸らす。  なんで? ギッサはただのクラスメイトでしょ?  晁沙は最近気になっていない。ただの六年のクラスメイトっていうか……そんな感じ。  もしかしたら、私、ギッサのこと……。  まっ! んなわけないでしょ! 「わ、和田ちゃん……。私も、疑ってきた……」  昼休み、私は和田ちゃんに話しかけた。 「えっ? 何が?」  えっ、ええっと。教室で話していいのかな……? 「あの、えっとね、私が『ギッサのこと好きだ』ってこと」 「え⁉︎ 大山ちゃん、ギッサのこと好きなの⁉︎」 「まだ分かんないから! まだね!」  そう。まだ決まったわけじゃない。そんなわけじゃない。  でも最近、晁沙を見ても、「かっこいいなぁ~」なんて感じなくなったんだよね。  それはつまり、もう好きじゃないってこと……、なのかな?  私がそう話すと、和田ちゃんは「ギッサのこと好きなんじゃない?」と言った。  それは、ない……のか? いや、否定しないっていうことはその可能性もあるんだよね、そうだよね。 「ギッサ!」 「何? 野田」  相変わらずギッサと野田(のだ)大翔(ひろと)は仲良いなぁ……。  そして相変わらず、ギッサはかっこいいなぁ……。  目で追っていると、和田ちゃんは私の目を見た。 「大山ちゃん?」 「……ギッサって、かっこいいよね……」  知らない間に、私はこう呟いていた。  私の小声はみんなにとっては普通の声なので、小さくしているつもりでも聞こえてしまう。だから、今の声も和田ちゃんに聞こえた。 「えっ? 大山ちゃん? え?」 「えっ、いや! 今のはなんでも……ないよ?」  否定してる私を見て、ニヤッとしだした和田ちゃん。 「えー? 大山ちゃーん?」 「え、いや、今のは……ね? うん」  目を逸らしていると、ギッサと野田君が視界に入った。 「ほんと、ギッサってなんか、かっこいいよねぇ~」  ふと、笑みが(あふ)れた。  自分のその行動で、“私はギッサが好きなんだ”って分かった。  ——和田ちゃん、私—— 「ギッサのこと好きだよ」  急に呟いた私を「えぇっ」と見つめる和田ちゃん。  私はもう、晁沙じゃなくてギッサが好き。  そう知った瞬間、今までで一番清々しく、一番ドキッとした。
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