361人が本棚に入れています
本棚に追加
はじまりは…
罰ゲームに負けて僕と佐久間は、売店横の自販機で飲料水を買って、教室に戻る途中だった。
僕はふと立ち止る。 廊下の窓越しを見上げると外は曇り空で、今にも雨が降りそうだった。
自宅に着くまで降らないでくれよと思いながら、そのまま校舎の廊下を歩いていた。
キャッキャッと遠巻きで騒いでいる女子の視線の方を見てみると、この高校で良い意味でも、悪い意味でもやたらと目立ち、一目置かれる存在である1つ上の有名人、波多野 蒼介先輩が数人の男女に囲まれて談笑していた。
……ハーレム状態だな。
別に僕には関係ないけれど。
何となく先輩の姿を目で追って立ち止まって見ていると、楽しそうに笑っているにもかかわらず、目が笑っていないような気がした。
「海里、早く来いよ」
「ごめん、待って」
先輩がこちらを見そうになり、さっと視線を逸らして、 僕はそのハーレムを足早に通り過ぎ、佐久間の方にバタバタと駆け寄った。
先輩の視線が僕の背中に感じたのは気のせいだろうか――――…
そして、次に波多野 蒼介先輩を見たのは、突然の夕立に襲われた日だった。
校舎の昇降口で、いつまでも降り止まない雨にうんざりし、濡れてもいいから自宅まで走って帰ろうと意を決した時、誰かが腕を掴み、声をかけてくれた。
「はいこれ。良かったら俺の傘使いなよ」
振り返って見上げると、そこには180㎝はあると思う高身長な人。波多野 蒼介先輩がにこやかに立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!