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「ただいま、おっ、いい匂い」
「おかえり、今日カレーと野菜サラダにしたよ」
「んー、了解。なぁ海里、カレー多目にある?」
再びカレー鍋を見ながらお玉でゆっくりかき混ぜながら僕は言う。
「うん。明日休みだから明日のお昼もカレーでと思って、多目に作ってた。どうしたの?」
「友達連れて来たんだ。出来上がったら教えて?腹へったからさっさと食べたい。なぁ、波多野?」
「――え…っ?」
兄に目線を向けると、兄の後ろには、驚いた顔をした波多野先輩がいた。そしてすぐに顔を綻ばせ、柔らかな表情で僕を見ている。
「ごめんね?お邪魔しちゃって。さっきぶりだね、……海里くん?」
多分この時の僕は驚きで、目を見開いていたと思う。
「驚いた?俺も驚いたよ。
俺ね、お兄さんとクラスが同じなんだよ。
改めまして俺は波多野 蒼介。よろしくね?松田に弟がいるって聞いて会ってみたかったんだ。そうしたら、さっき傘を貸した海里くんだったからびっくりだよねぇ。はははっ」
そう言って笑ってから
「 良かったら仲良くしてよ?勉強分からないとこあったら教えるよ?意外と俺、頭良いんだよ?」
そう言ってフワリと微笑んだ。
ドキドキが凄い。
多分 顔は真っ赤になってると思う。
「……あの、こちらこそ 宜しくお願いします」
先輩はただ声をかけてくれただけ。
ただ、僕にその場限りの言葉と
挨拶をしてくれただけ。
他愛ない挨拶と会話。
ただそれだけなのに――――…
ドキドキが止まらない。
その後、3人でカレーを食べた。
美味しそうにカレーを食べる姿も、あの傘を貸してくれた時も、今も先輩は笑って話かけてくれる。
先輩の目がちゃんと笑っていて、その笑顔で僕を見ているから、あり得ないのに勘違いしそうになる。
僕と先輩の接点は、傘を借りて、返してそれきりだと思っていたのに。
僕の淡い恋心にまた1つ火が灯る。
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