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日常になりつつある非日常
休み時間の僅かな時間に、僕は昨日の夜読んでいた小説をスマホで続きを読んでいた。
目の前でクラスの陽キャな女子2人が、窓を開けて外を見下ろしながら、コソコソと話しているのが聞こえてきた。
「あ、見て。蒼介先輩だ~。2年の次の授業って体育なんだね」
「あ、本当だ。ジャージ姿でも相変わらずカッコいい」
「お近づきになりた~い」
「あはは、相手にされないかもよ~?」
「それな。特定の相手作んないって話だしさぁ。遊び相手ならいくらでもいいらしいからさぁ。私、先輩になら遊ばれたいかも」
「わかる~それ。でも蒼介先輩、今遊んでないって話だよ」
「その話 聞いた。はぁ、まぁこうして見てるだけでも眼福天国かぁ~」
「言えてる~」
「「あははは…」」
その名前を聞いて僕はびくっと身体が反応した。
あの日からもうすぐ2週間が過ぎようとしていた。
波多野先輩の事を『蒼介』と呼ぶようになった。本人にそう呼ぶように言われたからだ。
最初は戸惑っていたんだ。名前呼びも。傘を借りて、蒼介が家に来て僕が作ったカレーを本当に美味しそうに食べてる事も。人懐っこく接してくれる事も。
校舎内で偶然会うたびに笑顔で声をかけられる。
会うたびに構われて、すれ違いざまに僕の頭をくしゃくしゃに撫でてくれる事に、僕は密かに喜んでいた。
しかも、ほぼ毎日兄と一緒に自宅に来て、晩ごはんを食べている事にも。
材料まで買ってきてリクエストまでされる。
それを違和感なく受け入れて、当たり前のようになっている事に僕自身が驚いている。
初めて会った時―――
『松田に弟がいるって聞いて会ってみたかったんだ。仲良くしよう?』
どうせその場限りの言葉だと思っていたのに――――…。
周りからモテモテな蒼介が、やたらと構ってくれるから、僕は密かに嬉しく思っていたんだ。
だけど…。
そうか。特定の相手は作んないのか…。と、少しだけホッとしたような、モヤモヤした気持ちになって、小説の内容が頭に入らなかった。
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