日常になりつつある非日常

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イヤホンをつけ、音楽を聞きながら、急ぎ足でずっとスタスタ歩いていたけれど、気持ちが落ち着くにつれて、途中からトボトボとゆっくりな足取りになっていく。 僕の中で蒼介の存在がドンドン大きくなっていたのが分かって、胸が苦しくなった。 追い掛けて来て欲しいとは思っていても、蒼介が僕を追い掛けて来る筈がない。 たかだか料理に使う食材を買いに行くだけの事なんだから。 今日は蒼介はうちには来ないだろうな。 ―――馬鹿みたい… 断るくらいなら最初から約束なんてしなきゃいいのに。 フゥ…、とため息をついてしまう。 突然 グイッと腕を掴まれた。 「海里!待ってっ!」 「―――っ?!」 振り向くと走って来たのが直ぐに分かる程、ハァ、ハァ、と息を乱しながら蒼介が 追い掛けて来てくれた。 僕は両耳のイヤホンを外し、蒼介を凝視してしまった。 蒼介は「ごめん!」と頭を下げて謝ってきた。 「いいですから、頭を上げて下さい」 僕は慌てそう言って頭を上げて貰った。 「一緒に買い物行こう?俺から言い出したのにごめんな?」 「――約束、良かったんですか?」 少し拗ねたように聞こえたかな…。 「ん、いいの。海里の手料理食べたいし、それに海里、泣きそうな顔してたし。ねぇ、そんなに楽しみだった?」 イタズラっぽく顔を覗き込んでくる。図星だけど強がった。 「……泣きませんよ。それに楽しみなんかじゃない」 「本当に?楽しみじゃなかった?……ん?」 「……楽しみだった」 観念して視線を逸らして、ボソリと小さく声にした。 その言葉を聞いた蒼介が、口角を上げた。 「かわいいね?海里は。本当にごめんね?」 柔らかに笑いながら、僕の頭を撫でてくる。 これだけで、先程までモヤモヤと心の中で渦巻いていた嫉妬とかの感情が薄らいだ気がした。 だけど、どうして蒼介は僕を優先してくれたんだろう。 本当にそれだけの理由なの? 深く聞くのが怖くて、そんな蒼介の空気に流されていく。 蒼介は心底楽しげに笑ってる。 蒼介が僕の隣で笑っているのが嬉しい。 だから それで良い。 それで十分満たされる―――…。
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